この講義では国際関係、とくに昨今の日本を取り巻く安全保障環境を理解するために、国際政治学における主要な理論や実証的な知見を概観する。安全保障の戦略的環境は戦争の影、つまり武力行使の可能性によって特徴付けられる。よってこの授業では以下の4つの論点について講義を行う。
(1)戦争の(政治的)原因のミクロ的基礎を理解するための戦争に関するパズルとその解としての戦争原因のモデル。クラウゼヴィッツの戦争の定義から、戦争とは何かを理解し、その原因を探ることで、なぜある国は軍事的な挑発行動をとり、なぜ核開発を行い、またなぜ領土紛争は武力行使へのエスカレートしやすいのかを説明する。
(2)政府や政治指導者が直面する国内政治上の諸問題や利害関係、そして国内の政治過程を規定する政治制度は、政府の外交政策の策定や履行に大きな影響を与える。それは時に国際紛争を誘発し、また時には紛争の平和的解決を促進しうることを論じる。
(3)国家が自国の安全保障を図る際に、軍事的緊張や武力衝突の発生を予防し、さらに既存の秩序や平和といった現状を維持しようとする施策は抑止である。抑止には核兵器を背景とした核抑止と、通常兵器を想定した通常抑止の二つの論理が存在する。ここでは冷戦期から今日に至る核戦略の変遷を辿り、また米軍の抑止力に依存する日本の拡大抑止政策の成否に関する実証結果を概観する。
(4)軍事同盟は国家が採用する安全保障政策の最も伝統的な選択肢であり、日本の防衛政策は日米同盟に深く依存する。しかし、国際政治学の理論から眺めると同盟を締結することの合理性には疑義が生じる。更に、沖縄の基地問題など大きな国内的な政治問題の原因ともなっている。それにも関わらず、なぜ日本政府は同盟を堅持するのであろうか。逆説的ではあるが、同盟は大きな政治リスクを抱えるからこそ機能しうることを解き明かす。近年の国際政治学は、ゲーム理論を採用することで、多くの理論が書き換えられている。
Overview
Taught by
Kurisaki Shuhei